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【作曲・出演】フェスティバル/トーキョー20 参加作品 モモンガ・コンプレックス『わたしたちは、そろっている。』

モモンガ・コンプレックスの新作に音楽監督として関わらせていただいている。


”ミュージカル的ダンス・パフォーマンス”。美術館を歩くような回遊型ダンスパフォーマンスであり、6時間の淡々とした日常ミュージカルでもある。


小屋入りして、まさに今回でしかありえないだろうセットが組まれた劇場内をゆっくりと歩いてみた。わたしたちはそれぞれの場所で生きている。見えない、会えない、互いに存在さえ知らないかもしれない人々の日常から発される雑然としたとりとめのない音。しかし私の立っている位置から耳に取り入れる時、なぜか壮大な地球のオペラに出会っているように感じられた。自然とつながりを持っているような癒しのある音も、うまくいっていない「かたまり」や「ひっかかり」のような音も、みんな含んだ世界のざわめきだ。


歌でひとつになろうとなんかしなくても、ただただ人々から出ているこれらの振動は、すでにこの世界と誰かを取り巻く環境を作っている、そう感じさせてくれる。


音程を合わせよう、足並みを揃えよう、上手に歌おう、あるいはあえて人と違うことをしよう、とすることは、時々緊張した空気で小さな声を支配したり、身体を置いてけぼりにしたりする。みんなを、確認もせず同じ方向に向かわせてしまう時もある。音楽のいい面でも、悪い面でもある。


例えば音程がはっきりするということは、記号の世界に入って、それ以外の膨大な音の存在の仕方を切り捨てるか、聞こえていないことにするということでもある。だからこそ組み立てが可能になるのだけれど。微分音だとしても、それらをコントロールし、共有するために生み出した細分化ならば、同じことなのだろう。と言いつつ、こういう考え方をするのも、私自身、知らぬ間に西洋音楽が自分のベースになっているからだなぁ。


私はある時からずっと、それぞれの人の振動と認識した世界そのまんまが「歌」になっていることを夢見ている。何かの基準から音楽のできる人が、何かの基準からできない人の独自の音楽世界に矯正をかける、おせっかいがなるだけないことを、夢見ている(本人が望んでいる場合は別だけど)。私自身を一般的な価値基準が満たして、それが実現できなくて、もどかしく思うこと、反省していることがたくさんある。


今回は、人類が積み重ねてきた音楽にまつわる技術や美意識(に憧れている)の世界と、個人の感知している音の世界とがどこかで手を結んで身体からにじみでていてほしいと願いながら時間を過ごしてきた。様々な基準の世界を、演奏者が独自の立ち位置でまたにかけているような存在であること。ひとつの価値基準の上で全体が「うまくなろうとする」空気には、したくなかった。


もうひとつ、離れ離れな人々の音が、舞台に「いる・いない」に関わらず、舞台空間で同時に奏でられていることもテーマだった。


まず、コロナの制約がひとつの理由でもあったが、生演奏の他に収録も行った。ミュージシャンに、あだち麗三郎さん、宮坂洋生さん、FALSETTOSのMiuko、Ingel、Fumie、レーコーディングと一部ミックスに片岡敬さんを迎えた。音の含んでいる空気を大切にする、すばらしいミュージシャンたち、エンジニアだ。この舞台にぴったりだと思ってお誘いした。


写真:廣田達也


Miukoさんには一曲楽曲提供もしてもらった。隕石にまつわるモモコンメンバーの短歌と返歌を元に歌詞を書き、彼女がすばらしい曲を書いてくれた。

今回は彼らのおかげで、自分が録音に持っている不思議な希望のようなものも作品に注ぐことができた(昔は録音されたものが舞台で流れるのが嫌いだった。入試の小論もそのことについて書いたほど…)。私は、舞台上でぽろぽろとピアノを弾いて、生きている時間も空間も違う彼らと演奏してみようとしている。


そして、舞台上で歌ってくれるのは、オペラ歌手として活躍、音楽の湧き上がる喜びみたいなものを伝えてくれた神田さやかさん、Jazz、Popsなど幅広い声色が魅力で、即興で常に新しい提案を作品に投げかけてくれるYuima Enyaさん、ダンサーさんで歌も三味線もすばらしく、ジャンルや表現形態の境界線でみんなに良い影響を与えてくれている内海正考さん。

ダンサーたちも、みんなそれぞれの声で、自分のものにして歌ってくれている。

様々な日常を持った人々が歌っている、それがとても心地よい。


もうひとつ。日頃から、民謡のように歌が作った人々から離れ伝播・旅をして、形を変えていくということがおもしろいなと思っていて、それもこの作品の中で試させてもらった。

具体的には、昨年訪れた精神科病院で入院患者さんたちと共に作った曲を登場させてもらっている。ある患者さんには歌詞提供もしていただき、舞台のための新曲を作ることもできた。病院から自由にいろんな場所に行くことはかなわない中、歌だったら…と思った。今回は配信も行うため、劇場で歌われているところを病院でも観ていただけるのがとても嬉しい。


出会うはずのなかった人々が、音楽の中で遭遇してくれたら何より幸せだ。時間も場所もこえて。


ばらばらな人々のかすかな遭遇を感じる一方、『伊勢物語』で様々な短いエピソードから一人だったかもしれない人物があぶり出されるように、これらの人々は、私だったかもしれない、私にもこんな生活があったかもしれないとも思いながら、劇場を歩いた。


それぞれの出演者のために歌を書いたが、それらが6時間をかけ一曲ずつ流れるのではなく、私には不思議と、同時に多角的に鳴り響いてように感じられている。一人の人物の様々な側面を見るように。それが私であったかもしれないと。時間は一方向に流れているというより、立体なのかもしれない…と不思議な感覚におそわれている。

というか、自分で書いたからな、笑。

そして、きっかけや構成が頭に入って来る余裕が、今やっとできはじめた。本当にごめんなさい。


音楽監督という役割をいただきつつ、実際には誰よりも演奏がぼろぼろで、空気も空間も読めず、曲を書きまくったは良いが、書いたものもぐちゃぐちゃで、頭の中もぐちゃぐちゃ、身体も付いてこなかった。


白神さんの音楽への興味と構成力に、そして出演者のみなさんのお力や誠実さ、スタッフのみなさんの技術やお気遣いに頼らせていただき、形になっています…。ご迷惑をおかけしてごめんなさい。

そして、このような新しい試みに関わらせていただき、ありがとうございます。



フェスティバル/トーキョー20 参加作品 

わたしたちは、そろっている。

振付・演出:白神ももこ

2020年10月24日〜2020年10月25日

東京芸術劇場シアターイースト

離れているから、生まれる。

“新しい日常”に贈る “ミュージカル的ダンス・パフォーマンス”





振付・演出家、白神ももこのもと、シュールな感性と叙情をないまぜにした独自の作品世界を展開するモモンガ・コンプレックスによる新作公演。

「観察型ミュージカル的ダンス・パフォーマンス」と銘打たれた本作は、集まることが当たり前ではなくなった今この時にこそ、「上演」や「個と全体/集団」の意味を、ユーモアを持って問い直そうとする。エリアやタイムラインで区切られたパフォーマンスは、『伊勢物語』を始めとする歌物語の構成を意識したもの。西井夕紀子を音楽監督に迎えつづられるスケッチ(場面)を、観客は自由に観覧し、つなぎ、物語を紡いでいく。そこにはきっと、別々の、離れた存在どうしであるからこそ生み出される表現、人との出会い方、つながり方への希望が見出せるはずだ。



|アーティスト・コメント


春、ひとり。

することもなくただぼんやり川を眺めていたある日、それまでの日常が訓練というものの連続だったことに気がついた。自分の部屋の小さな窓から忙しなく無情に通り過ぎる日々を眺めて思い出したりもした。早く起きる訓練、速く 歩く訓練、共通の言葉を話せるようになる訓練、大きな声を出す訓練、耐える訓練、誰かの指示に従い順応する訓練。

訓練と学びの喜びを履き違えていた。

わたしたちは、踊っている。

踊らされているのではない。

河原にしぶとくほうぼうに生える野草のように、わたしたちは、そろっている。


行く水と 過ぐるよはひと 散る花と

いづれ待ててふ ことを聞くらむ

(『伊勢物語』より)


白神ももこ



出演:

臼井梨恵 北川 結 仁科 幸 塙 睦美 夕田智恵 白神ももこ(以上、モモンガ・コンプレックス)

神田さやか Yuima Enya 内海正考

西井夕紀子

スタッフ

振付・演出:白神ももこ

音楽監督:西井夕紀子

舞台美術:佐々木文美(快快)

舞台監督:櫻井健太郎

音響:星野大輔、今⾥愛((株)エスエフシー)

照明:中山奈美

映像:ワタナベカズキ

衣裳:臼井梨恵

宣伝美術:一野 篤

協力:藤田有紀彦

制作:萩谷早枝子


演奏:Ingel、Fumie、Miuko(以上FALSETTOS)、あだち麗三郎、宮坂洋生

録音:片岡敬

日時・時間

2020年10月24日〜2020年10月25日


■F/T remote(オンライン配信):

10/24(Sat)13:00~19:00

10/25(Sun)12:00~18:00


■東京芸術劇場シアターイースト

入場時間:

10/24(Sat)

①13:00~14:00「ゆらぎ」

②15:30~16:30「うつろい」

③18:00~19:00「きざし」


10/25(Sun)

①12:00~13:00「ゆらぎ」

②14:30~15:30「うつろい」

③17:00~18:00「きざし」


※ロビー開場は開演の30分前、開場は10分前

※各回入れ替え制、ご購入いただいた回のみご入場いただけます

※オンライン配信は6時間通しで行います。

料金

■自由席・スタンディング

一般前売 :¥3,500

先行割引:¥2,500 ※1

学生 :¥2,300 ※2

高校生以下:¥1,000 ※3


■オンライン配信視聴券

F/T remote(オンライン配信):¥1,500



※1 販売期間:9/9(Wed)-9/12(Sat)、一般発売は9/13(Sun)より。

※2 当日券共通。当日受付で要学生証提示

※3 当日券共通。当日受付で要学生証または年齢確認可能な証明書の提示

※4 未就学児の入場はご遠慮ください。

※5 前売券ご購入の方はF/T remote(オンライン配信)でもご視聴いただけます。(ご視聴できるのはご来場日の上演となります。)

※6 会場内を回遊してご鑑賞いただきます。またライブ配信を同時に行うため、鑑賞中のみなさまが配信映像に映り込む可能性がございます。あらかじめご了承ください。

※7 オンライン配信視聴券は10/1より発売します

会場

東京芸術劇場シアターイースト


〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-8-1

電話 03-5391-2111(代表) ファックス 03-5391-2215

<受付時間>9:00~22:00(休館日を除く)


JR・東京メトロ・東武東上線・西武池袋線 池袋駅西口より徒歩2分。駅地下通路2b出口と直結。


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主催 フェスティバル/トーキョー


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